決算説明会の質疑応答から少しずつ。
http://www.nintendo.co.jp/ir/library/events/070427qa/index.html


※以下のQ及びAの内容は必要な部分のみ抜き出した上でさらに要約してあるため,

正確な内容や文面については必ず上記ページにてご確認いただくようお願いします。



Q2,DS向けタイトルの増加について,単純にマーケットの拡大と考えるか縮小要因となると考えるのか。という質問。
A,増えることは喜ばしいが,ただ喜んでいられない。お客様の有限のアテンションの中から,どのように必要なものをお知らせするか,期待を裏切らないようにするか,今後の重点課題として取り組まなければならない。


煮え切らない答えに感じたのだが,この質問は非常に重要な質問だと思う。64時代に少数精鋭を掲げて,失敗した経緯があるが,岩田社長に代わってからは,再度,ソフトメーカーとの関係拡大が目標であったわけであり,しかも一気にそれが実現した今となっては,その選定が今一度重点課題になってきたことは間違いない。


私は近頃感じているのだが,スーパーペーパーマリオのエントリー でも書いたと思うが,任天堂内で開発されるゲームに関しては高い水準を保っているけれども,他社開発のコンテンツを受け入れる際にその審査に関して水準が下がってしまっているのではないか。セカンドパーティのゲームでもそう感じるのだから,サードパーティについてはなおのことだろう。その要因としては,岩田体制がソフトメーカーとの関係拡大をひとつの目的としてきたことと,社内のソフトタイトル数向上問題やWii及びDSにおけるネットワークインフラやオンラインコンテンツ(Wiiチャンネルの更新作業や各個別ゲームに対応した追加データ)などの副産物的作業により,開発者の本来的な開発以外の部分での作業が増加していることがあると考えている。


特に問題視したいのは,後者の副産物的作業である。ネットワークや追加データ等は任天堂が目指してきた夢のゲームの在り方ではあったが,一方でそれが実現してしまったことで,オンラインに対応させたいゲームが増えてくることにより,それぞれのゲームに追加データを供給しなければならなくなった。簡単にそれらのサービスを打ち切るわけにはいかないので,これは,ソフトが増えれば増えるほど増大していく問題だ。これはオンラインゲームを考える上での根本的な問題であるかもしれない。あるソフトに注力できるメーカーなどは良いだろう。例えばPC上でのオンラインゲームでは少数のゲームを長期的に運用することに注力しているから,コンテンツ数はコンシューマゲーム機市場ほどには増えてないし,その分サービスも飛躍的に増える心配はないと言えるが,任天堂の場合はそうではないだろう。特に質疑応答の中でもあったが,任天堂は従業員の数から言って決して大企業ではないので,人員をどうするのか,増やすとすれば収益が急速に減退したときにどうするのか,という問題にもぶち当たる。


Q6,アメリカ市場での戦い方について。
A,ブレインエイジが,ヨーロッパでは3万本にもかかわらず,アメリカでは1万本なのはなぜか,というコミュニケーションをしている。一方で,Wiiスポーツなどには手ごたえを感じている。


アメリカ市場のキラーコンテンツは「ブレインエイジ」ではなく,どう考えても「ヘルスパック」だと思うが。あとは「グリーンパック(環境対策ソフト)」があればなお良い。例えばペットボトルなどの再利用方法を詳しく解説した辞書タイプのコンテンツにし,それを実践したことで記録がつけられるようにし,そのことが地球の環境にどれだけ寄与したか,例えば南極の氷に影響したり,地球を表示させて森林が増えるなどのシミュレーションができるソフトを発売すれば,ゴア氏の推薦なんかもあって,クチコミや一般メディアを利用して販売本数を増やすことが可能だったりするかもしれないね。


Q12,DSのプラットフォームの寿命をどう考えているか。次世代ということも含めて中期的なビジョンを。
A,シングルアーキテクチャが社会のインフラとして役立つことができれば,例えば携帯電話のような台数のものがシングルアーキテクチャで動くことの有益性を考え,寿命を長くできるさまざまなチャレンジをする。


シングルアーキテクチャの普及拡大は,経済学では「ネットワーク外部性」というのだが,例えばWindowsを利用する者が周りに増えることによってファイル形式の非対応などといった問題が減り,Windows自体の効用(有用性)が上がることと同じで,確かに有益だ。


一方で,「独占」の問題をも考慮しなければならない。DSの普及が国民的なものとなり,娯楽だけでなく生活圏にも利用が及んでくるとすれば,そのアーキテクチャを一企業だけが生産し続けることには問題が生じる。実際のところそこまでいくとは私は考えてはいないが。というか,消費市場の自然的独占ならまだ良いが,SFC時代などに批判の矛先となった供給市場の人為的独占の再来には特に気をつけなくてはならない。


Q16,久多良木氏のヘッドハンティングの可能性について。
A,それはないのではないか。


いつも慎重というか無難なコメントをするのに,この可能性についてはほぼ断定的に否定したのがちょっと面白かったので取り上げてみた。


Q17,セカンドライフについてどう考えているか。
A,私個人はほとんど興味を持っていない。将来ものすごい存在になるとも思っていない。それは現代を生きる人間には時間やエネルギーが限られている。人間が何かをインプットしたことに対して,ご褒美があるのがゲームである。


これはやや聞き捨てならないと感じた。セカンドライフにはビジネス的にしろ,バーチャル的にしろ,なんらかのインプットに対するご褒美があることも間違いなく,そういう意味でセカンドライフはゲームと言えるのであり,岩田氏の言葉は必ずしもセカンドライフ=ゲームということを否定していないと言える。


だが,興味がない,と言っているのはゲームとして見ているが,任天堂の目指すものと違うので興味がない,というのが大筋で言いたいことだろう。つまりソニーのPSなどに対するいつものスタンスと同じである。


しかし,私はセカンドライフとどうぶつの森は,同じ類のゲームと考えている。もちろん貨幣の現金化など全く異質な面は持っているが,根本的にバーチャル世界での暮らしをすることでは共通しているし,バーチャルだからといって実在の人間とコミュニケーションをとることを目的としていることも共通している。セカンドライフの目標がどのへんにあるのか私は知らないが,任天堂がどうぶつの森とセカンドライフを比較し,その差異性や意味づけなどをしっかりと考えて欲しいとは思う。



別にまとめというわけでもないが,今回の質疑応答ではツッコんだ質問が多かったというようには感じた。DSの普及,Wiiのローンチという状態で,次の段階をどうするか,というもやもや感が,それだけ投資家にあったのではないかと思ったし,実際私はそう感じた。岩田氏の回答からは,試行錯誤の繰り返しがまだ続いているというように思われた。


以前に,任天堂は次の夢を見れるか ,というエントリーで書いたような,次の具体的なビジョンが見えない状態が今はある。それが今はいいが長く続くと,娯楽企業としては期待や消費者の注目を失ってしまう。やはり,人員的な企業規模に比べて,コンテンツが拡大しすぎてしまっているような感はある。ソフトを多く出すということではない意味においての回転率を上げることで,消費者をワクワクさせ続ける必要性が高まってきているのではないだろうか。